緋澄ルート1

#優也
「蓼丸さんのことなんだ」
#
僕はため息を吐くように、そう言った。
#いとよ
「大好きでいらっしゃるんですね、蓼丸様のこと」
#
いとよはニコニコしながらそう言った。
#優也
「大好き」
#
僕はそう言ってから、
#優也
「どうすればいいんだろう」
#
そう天井を仰ぎながら吐き出した。
#いとよ
「まずは告白ですよ」
いとよが妙に自信たっぷりにそう言った。
#優也
「玉砕したらどうするんだよ!」
#
僕は思わず言った。
#いとよ
「再告白です」
#優也
「えー……? 一度振られてるのに再度『付き合ってください』みたいなことを言うの?」
#いとよ
「言うのです」
#
またも自信たっぷりに言ういとよ。
なんか今日のいとよは妙に生き生きとしている。
#優也
「一度断られても再告白……難易度高っ!」
#いとよ
「だから気持ちが伝わるのです」
#優也
「徐々に親密度を上げていって、勝算が出てきたところで告白のほうが良くないか?」
#いとよ
「そんな時間のかかることをしていては、他の男の子に取られてしまうリスクがあります」
#優也
「それは……」
#
何かを言い返そうと思ったが、返す言葉はなかった。
#いとよ
「それに、徐々に親密度を上げていくって、そんなにいい方法はないと思いますよ」
#優也
「プレゼントとかどうかな」
#
僕は前から妄想してたアイデアを口にした。
#いとよ
「それは告白の後のほうが良いと思います」
#優也
「そんなものか」
#いとよ
「あたしの感覚としてはそうだし、女の子一般的にそうだと思います」
#優也
「うーん」
#いとよ
「まああたしは奴隷ですけど、恋に関する女の子の気持ちって、身分によってそんなに違わないと思うんです」
#優也
「わかった、信用する、じゃあ……」
#いとよ
「はい」
#優也
「どんな告白が良いだろう?」
#
このように僕は、いとよの全面協力の元、告白の作戦を練った。

朝の通学路。
少し早めに家を出て、昨日蓼丸さんと出会った場所で、彼女を待つ。
#優也
(居た!)
#
蓼丸さんを確認したら、早足でまっすぐ向かっていく。
彼女がこちらに気づく。
その表情は変わらない。
いや、少し硬い表情になってる?
でもそんなことを気にしている余裕はない
#優也
「蓼丸さん!」
#
彼女が僕の顔を見る。
#優也
「クラスメートの塚見原です!」
#緋澄
「……昨日聞いたような気もするわ」
#優也
「僕はあなたのことが大好きです!」
#
言った。
言ったぞ。
ここまでは計画通り。
蓼丸さんの表情は……あまり明るいとはいえない。
無表情、やや迷惑してる寄りな気もしてしまう。
でも怯んでる場合じゃない。
#優也
「あなたへの気持ち、手紙に書きました!」
#
ポケットからラブレターを取り出す。
#優也
「読んで……」
#
まずい、緊張の度が過ぎて声が裏返って上手く発声できない。
大きく一呼吸してから、もう一度言いなおす。
#優也
「読んでください、それで、僕とおつきあいを……」
#緋澄
「……く」
#優也
「えっ」
#
彼女が何かをつぶやいたような気がして、僕は聞き返した。
#緋澄
「迷惑」
#
言われてしまった。
かなり強力な拒絶の言葉を。
#優也
「読むだけは……読んでくれませんか」
まずい、ハキハキと喋ることが難しくなってる。
#緋澄
「気が向いたら読むかも」
#
そう言いながら、渋々という感じで受け取ってはくれた。
しかしつぎの瞬間。
#緋澄
「つきあうとか、ありえないけど」
#
蓼丸さんはそう言った。
そしてスタスタと歩いていってしまった。
肩を落とす僕。
#いとよ
「お疲れ様です」
#優也
「どうも駄目みたいだ……」
#いとよ
「優也様、例えばですが、顔も見たくない、とか言われましたか?」
#優也
「流石にそこまでは言われてないけど」
#いとよ
「では、第二ラウンドのことを考えましょう」
#
いとよのその言葉に、僕は目の前が明るくなった気がした。
まだ終わりじゃない、そう考えても良いのか。
目からウロコ。
#優也
「ありがとう、いとよ」
#いとよ
「え、いえ、どういたしまして」
#
この時僕は、ここから先は、いとよに頼らず自分で作戦を考えていこうと決意した。
いとよには、この件ではもう多くのものをもらった。
ここからは自分だけでやるべきだ。
うまく説明できないがそう、決意したのだ。

学校の授業が終わり、放課後。

#いとよ
「それでは蓼丸様のことは、優也様一人で考えられるのですか」
#優也
「うん、それが良いと思うんだ」
#いとよ
「分かりました、応援してます」
#優也
「それで僕、ちょっと街の方寄っていくから」
#いとよ
「ご一緒しないほうが良いですか」
#優也
「うん、一人で行きたいんだ」
#
そんな会話があって、僕は繁華街の方に来た。
蓼丸さんへのプレゼントを買うためだ。
恋愛のやり方に定石みたいなものがあるとしたら、ここでプレゼントを送るというのが定石に則ってるかどうか、それは分からない。
でも僕は自分で考えて、良いと思ったことをやるって決めたんだ。

ATMで貯金を全額おろした。
三万五千円。
そして僕は宝飾品店に入る。
指輪か何か、そういったものをプレゼントするつもりだった。

ガラスケースを眺めながら、僕は買うのは指輪が良いだろうなとあたりをつける。
安いものは一万円以下のものもあった。しかし、そういったものは宝石が嵌っていない金属だけの指輪だった。
それではいまいち見栄えがしない、と僕は考えた。
不透明なグリーンの石が嵌っている指輪もあったけど、それも候補から除外した。
透明な石がはまってる指輪。
そう考えると、その店のガラスケースの中には三万円以下のものはなかった。
迷った挙句、僕は一つの指輪を買った。

アルバイトをしたことがない僕の、現時点での最高金額の買い物だった。
家への帰途で、高揚感と無駄遣いをしたかもしれないとの心配が交互に押し寄せてきた。

  • 最終更新:2017-05-12 23:53:38

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