緋澄ルート3

#緋澄
「少し話をする時間ある?」
#優也
「え、うん、大丈夫」
#
緋澄さんの表情はいつになく柔らかく見えた。
胸が踊った。
体を張って不良から守ったかいがあったのかな、そう思った。

#緋澄
「塚見原くんはわたしを彼女にしたいのよね」
#優也
「はい!」
#緋澄
「いい返事」
#
緋澄さんは少し笑った。
#緋澄
「わたしが社長の娘だって言う噂、聞いたことがある?」
#優也
「それは、あります」
#緋澄
「それだから好きなの?」
#優也
「え、いや、関係ないです」
#緋澄
「わたしが貧乏人の娘でもいいの?」
#優也
「大丈夫です、関係ないです」
#緋澄
「本当に?」
#優也
「本当です」
#
本当に、そんなことは関係ない。
#緋澄
「実はね、今、私の家は貧しいの」
#優也
「はい」
#
どう答えていいか思いつかず、それだけを言った。
#緋澄
「本当よ。これはね」
#
緋澄さんはかたわらのゴミ袋を指していった。
#緋澄
「わたしが集めた空き缶。売ってお金にするために集めているの」
#優也
「はい」
#緋澄
「これはわたしの秘密。誰にも言わないで」
#優也
「言いません」
#緋澄
「もう少し話がしたいわ。一緒に来てくれる?」
#優也
「はい!」

#
緋澄さんは歩きながらいろいろなことを喋った。
かつて家が裕福だったが、父の事業の失敗により貧乏になったこと。
家が貧乏になったのを知られたくなくて、友達付き合いを減らしたこと。
新しい友達も作らず、恋人を作ろうともしなかったこと。

#緋澄
「だからね、わたし、恋人になるってことがどういうことか、よく分かってないかもしれない」
#優也
「それは、デートをしたり」
#緋澄
「そうね、デートをして、お互いがお互いのことを好きになったら、セックスをするのよね」
#
僕は緋澄さんの率直な言い方に動揺した。
#緋澄
「違う?」
#優也
「ええと……率直すぎるけど、そんなところかな」
#緋澄
「ちょっと、分からないような気がするのよね、セックスっていうのが」
#優也
「それは……」
#緋澄
「したことはあるわ」
#
緋澄さんは慌てて補足するように言った。
#緋澄
「誰と? って聞かれると思うから答えるけど、あたしの奴隷とよ」
#優也
「ああ」
#
 やっぱり緋澄さんには男の奴隷がいるのか。
 胸がちくりといたんだ、気がした。
 しかしそんな微妙な心は緋澄さんの次の発言でふっとんだ。
#緋澄
「ねえ、塚見原くんもわたしとHしたいの?」
#優也
「そ、それは」
#
正直に答えて良いものだろうか。
#緋澄
「どちらであってもあなたに悪印象を持ったりしないから、正直に言ってほしいわ」
#優也
「したいです」
#
うつむきながら言った。
#緋澄
「そ、そう。でも分からないわ。セックスのときって女が男を鞭で打つじゃない?」
#
あれ?
いま緋澄さんなんて言った?
#緋澄
「男の人だって別に鞭で打たれたりとか、痛いのが好きな訳はないじゃない? セックスのときだけ違うの? そのあたりがどうも理解できなくって……塚見原くん?」
#
その時僕がどんな表情をしていたのか自分でははわからないが、とにかく緋澄さんは僕の表情を見て何かを悟ったようだ。
#緋澄
「もしかしてだけど、わたし、何か変なこと言ってる?」
#優也
「なんか誤解があるような……」
#緋澄
「あらー」
#
緋澄さんはなんだか緋澄さんらしくない声を出した。
#緋澄
「待って。待って。わたしもね、何か間違ってるかもしれないとは思ってたの。ほら、その、あたしの父の事業がうまく言ってたのが、子供の頃で……。思春期前に、父の事業が失敗して、わたしは貧乏になったのを隠すために友達と疎遠になったのよ」
#優也
「はい」
#
僕はなんだか面白い話の展開になったなと内心思っていた。
緋澄さんは微妙に取り乱しているようで、こんな緋澄さんを見るのは初めてだった。
#緋澄
「だからね、わたしの性の知識って、入手源が極めて限られてるっていうか、えーと……ちょっと待って、って言うか、そこがあたしの住んでるところなんだけど……ちょっと、上がってく?」
#
僕は意表を突かれた。
ボロアパートと形容するのがふさわしい建物だった。
なるほど、現在の緋澄さんの家は貧しいのだろうと思わせるに十分だった。
#優也
「いいんですか」
#緋澄
「誰もいないし。まあ、ろくなおもてなしも出来ないけど」
#
そういうわけで僕は緋澄さんの家にお邪魔することになった。
家具といえるものも少ない、貧しさの感じられる部屋だった。
#緋澄
「ミネラルウォーターしかないけど」
#
そう言って緋澄さんがコップに入った水を持ってきてくれた。
水を飲んで、一息ついたところで緋澄さんは話を再開した。
#緋澄
「まず、セックスって、女が男を鞭で打つわよね? ここまでは合ってる?」
#優也
「合ってないです……」
僕は苦笑しながら言った。
まさか緋澄さんにこんな面白い一面があるとは思っても見なかった。
#緋澄
「嘘……」
#裏切られたような表情になる緋澄さん。
#優也
「いや、そういうプレイもあるかもしれないけど、すごく特殊だと思います」
#
僕がそう言うと、緋澄さんは少し安心したようだった。
#緋澄
「あ、あるのよね? そうでしょ? でも一般的ではない? そういう事?」
#
どこから説明すれば良いんだろうかと、僕は考えた。


  • 最終更新:2017-05-16 00:40:13

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